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デジタル・テクノロジーとコンピュータが結びついてできあがっているインターネットは、人間本来のコミュニケーションに立ち戻って、それを支援できる可能性があると言いましたが、―方ではすでに、これまでの人間のコミュニケーションにはなかった新しいコミュニケーションを実現しはじめてもいます。
それは第―に、規模の大きさです。
世界中のコンピュータがつながることで、いままでのコミュニケーションで考えられていたどんなものよりも、どんな放送も出版も実現できない規模へと、しかもそれらが犠牲にしてきた双方向性を維持したままで広がっています。
このことは序章でも話したことですが、インターネットがコミュニケーションにもたらした、もうひとつのブレーク・スルー(突破口)があります。
それは、誰でもがコミュニケーションの主体や当事者になれるということです。
メディアとしての可能性これまでは、出版だったら出版社、放送だったら放送局というぐあいに、ある定まった―点から、―方向のコミュニケーションを発信するという方法で、大きな規模というものをつくり出してきました。
したがって「規模」をつくり出すためには、力が必要だったのでした。
これに対して、インターネットでは、大規模なコミュニケーションをするときに「力」が必要ではないのです。
つまり地球上の人類の一人ひとりが、コミュニケーションをする平等な権利を持って、世界中の人間と双方向のコミュニケーションをはかるという可能性を、インターネットは持っている。
このことが今後、人間がいろいろな情報や知識の空間をつくり出していくために、たいへん重要な意味を持っているのではないでしょうか。
たとえば、フランスの核実験再開をめぐって、こんなこともありました。
一人の学生が、「この核実験に反対したいと思うけれど、みなさんの意見を求めます」、とインターネットで掲示したのです。
すると、たちまち何万人もの人が意見の交換のために書きこんできたというのです。
こういうことが、いつでも誰にでもできる。
それは、インターネットのコミュニケーションならではのことでしょう。
こうしてインターネットは、さまざまな意見や意思表現のあり方や方法にも、大きな変化をもたらす可能性があるのです。
マルチメディアということばについても序章に述べましたが、異なるメディアを統合的に取りあつかうということは、文字、数値、音声、映像などのすべての表現形式がデジタル情報としてあつかわれるデジタル・コミュニケーションの世界でこそ、展望の開ける分野です。
ですから、インターネットの上では、マルチメディアの新しい世界を経験することができるのです。
インターネット百科事典インターネットでは、誰でもがコミュニケーションの主体になれる、もうひとつの事例としてインターネット百科事典について、紹介しておきます。
第二章では、ワールド・ワイド・ウェッブのリンクをたぐっていった結果としてできてくる百科事典のような知識体系にふれましたが、ここではWIDEプロジェクト(四章で後述)で進行している、インターネット上で意図的に百科事典を編纂しようという動きを見てみましょう。
そもそも百科事典というのは、各分野での権威を集めて人間の知識の集大成をつくることメディアとしての可能性によって、知識の伝達をはかっているものと見れば、ひとつのコミュニケーションの手段だといえます。
インターネット上での百科事典の計画というのは、普通の百科事典とは大きく異なり、インターネットの参加者それぞれの視点での知識の体系を、それぞれの価値観に基づいてつくっていき、それを受け取る側も、自分に合った視点による知識を選びながら体系的な知識を得ていくことができるようになっているという試みです。
知識の裏づけに権威があるというのではなく、それぞれの人がもっている見方に基づく自分の判断によって知識を選び、獲得していくという方法です。
インターネットの空間で、参加者すべてが対称に情報の流通ができるということから、この試みも可能となっているわけです。
さて、そのような百科事典では、ある項目についていく通りもの記述が並ぶので、いったいどれを選べばよいのかわからない、ということが問題となりそうです。
百科事典というのは、ものを知らないから引くのに、どの記述が正しいかをまず選ばなければならないというのでは、使い物にならないのではないか、という心配もでてきそうです。
この点は、あまり心配いらないのではないかと思います。
それはなぜかというと、私たちが普通の事典や辞典を使うときでも、最初にいろいろな情報をもとに、選択をしていることを思い浮かべるからです。
いろいろな事典があった時に、判断の基準はさまざまでしょう。
A社の監修者のほうが偉そうだとか、B社のほうが信頼性の高い出版社だとか、C杜のをみんなもっているとか、D社は独特の編集方針だとか。
インターネットの百科事典は、いわば会社単位、―冊単位でしかありえなかった従来の選択肢を大きく広げたものだといえます。
そして、同時に従来のような判断基準よりも豊富なデータを提供できます。
豊富な手がかり日ソがついた選択肢具体的に説明しましょう。
インターネット百科事典に「ウーロン茶」という項目があったとすると、そこにいく通りもの記述があるわけです。
中国で誰それが発明したというのがあるかもしれない。
何からできているというのがあるかもしれない。
それだけでは本当か嘘かわからない。
しかし、各項メディアとしての可能性目には付帯的なデータがつけられています。
たとえば、これまでにその項目が何回読まれたか、その項目についてどういう評価があるか、どんな属性の人が多く読んだか……そういうことがどんどん蓄積していく仕組みかつくれるのです。
これを手かかりに、たとえば多数の人が読んでいるものを読みたいというのならば、読まれた回数が最多の項目を選ぶし、あるいは自分が女性で、それまでに女の人が多く読んだものを優先的に読みたいと考える人はそれを選ぶ。
そのようなことができる仕組みになってきています。
つまり、種々の情報が全く等価にならんでいて、完全に自分の目で情報を選ばなければならない、というような状態ではなく、手かかりを出しながら、選択可能性を高める、そのような百科事典がインターネット上では実現できるわけです。
人間本来のコミュニケーションを復元する百科事典の話を教宿して考えれば、従来は出版されなかったり放送されなかったりした情報を、インターネットは交換したり共有することができるわけです。
情報が多すぎると、その情報についての付帯情報も多くなって、利用するのが複雑になるかもしれませんが、この付帯情報を整理する場面には、テクノロジーの支援が期待できます。
したがって、情報が増えていく方向については、新たな支援テクノロジーをつくり出すことによって問題が解決できると思われます。
しかし、問題なのは、そもそも情報が欠落しているかもしれないということです。
人類の歴史はメディアのいろいろな制限によって多くの情報を切り落としてきたと言えます。
そこで、人間が本当の意味で知識や情報を摂取する空間は何なのか、コミュニケーションをする空間はどのようなものか、と立ち戻って、インターネットのテクノロジーで考え直してみると、いままで切り落としたものをもう一度復活させることができるかもしれない。
復活とまではいかなくとも、これからはできるだけ切り捨てずに行けるかもしれない。

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